分かっていないのは誰? -②

(前回の記事の続きです)


電車の中で一人で外を眺めながら、悪いことばかり考えていた。
そんな感情になってるなんて夢にも思っていない彼からは、返事が無いことを心配してLINEが来ていた。


誠:もう電車乗ってる?何時頃か教えてね。


彼は全く悪くない。
私が聞いたんだもの。
だから素直に答えただけ。
早く到着時間を伝えないと。お茶楽しみだねって送らないと。


そう思うのに、LINEを打つ手は全く違うことを入力した。


とも:結局、敵わないんだよね。


誠:敵わないって何が?


とも:自分たちのことだけ考えられた頃に恋愛できてた人には敵わないよ。私もあなたが20代の頃に出会いたかった。あなたと恋愛したかった。でも、現実を考えると貴方が結婚したころ私はまだ中学生。出会っていたとしたって、無理な話だよね。


誠:あぁ・・そういうことか。でも、敵う敵わないとかじゃないでしょう。勝ち負けじゃないんだから。



そう・・だね。
勝ち負けとかじゃないね。
でも、あなたに見初められて、声をかけられて、数か月後には同棲をして、一年以内に結婚して・・たった一年で、私があと何十年待っても手に入らないものを手に入れてる前の奥さんには、やっぱり敵わないって思ってしまうんだよ。


そんなことをしている間に、彼の会社の駅がもう次、となってしまった。


とも:もう次○○なの。まだ仕事中だろうし、今日はまっすぐ帰ります。


誠:そうなの?お茶したかったのにな。


こんな嬉しいセリフにも飛びつけないくらい、私の心は頑なになってしまっていた。
いつもいつも大好きなのは私ばかり。最初っからそうだった。


好きになったのも私から。
勇気を出して飲みに誘ったのも私から。
LINE交換をお願いしたのも私から・・・。


前の奥さんのことは、あなたが先に好きになったのに。
あなたが自分から声を掛けたのに。


・・・
あなたから「結婚したい」ってプロポーズしたのに・・・。


そんな嫉妬でいっぱいだった。
自分で自分を追い詰めて、悲しみに溺れていた。

だから

とも:あなたは、(会えないくらい)平気でしょ。


って返信をした。
どこかで、期待していた。
「平気なんかじゃない。会いたいよ」と言って引き留めてくれることを。


でも、彼からの返事は「わかった。もういいよ。」だった。


お互いの都合が合うのに、会えるのに会わなかったのは初めてだった。
「もういいよ」か。嫌われたかな。


ぼーっとしながら家に帰った。


バタバタと家のこと、子供たちのことをして、子供たちを寝かせた。
バタバタしている間は気もまぎれていたけど、子供が寝た後の静けさが余計に寂しく感じられた。


彼からはいつも来る「ただいま」LINEも無い。
私も送ってないのだから、人のことは言えないけど。
やっぱり怒らせたか、嫌われてしまったのかな。


このままは嫌だなって思って、彼にLINEをした。
でも素直な言葉が出てこない。


とも:帰りの話だけど・・前の奥さんにはすきだから結婚しようって思って・・そのまま実際結婚して・・私には手に入らないものを前の奥さんはたくさん持ってた。それが羨ましくて、負けたような気がしたの。


誠:そんなことないよ。ただ、今の私たちはお互いそこまで身軽じゃないっていうだけだよ。


とも:・・だとしても、このタイミングでしか出会えなかったのは『縁が無かった』と感じてしまうよ。それに・・・以前私が『もっと前に誘っていたらもっと若いあなたも知ることができたのにな』と言ったとき『その頃はまだ既婚だったから、そういうことにはなってなかった』って断言したよね。つまり、あなたは前の奥さんと結婚しているときだったら、私の出る幕は無かったって言ったんだよね。
その時点で、私は前の奥さんに敵わない。


誠:違うよ。相手がすきだからじゃ無く、約束を自分から反故にするのはダメと思ってるだけだよ。


とも:それでも私には「私は踏み込ませてもらえない領域」に思えた。


誠:そんな風に思ったことない。


とも:でも結婚だからこそ「相手の人生への責任」が伴うとおもうし、ただの恋人にはないでしょ?


誠:そうかな。気持ちが伴えば、形は関係ないよ。


とも:あなたは男性だから、好きな人の苗字になるという喜びがどれ程のものか、きっとわからないんだね。


誠:うん、わからないよ。


・・・分からないんだ。
分かってほしかった。
本当には分からなくても、「ともちゃんはそうなんだよね」って私の気持ちを受けとめてほしかった。


とも:何度も今まで同じ話をして、鬱陶しいと思ってるんでしょ?


誠:何度話してもいいよ。でも、結論はでないよ。


とも:「結論が出ないことに時間を割いて、無駄なことをしてる」って思ってる?


誠:そうじゃないよ。でも、あなたと私では「結婚」に対する思いがが違うから、この話は綺麗な結論はでないと思ってる。


とも:そうだね。私だってあなたが「結婚」をしたいって思ってるわけじゃ無いことは理解はしてる。でも、私は結婚したい。その気持ちを受けて止めてほしかった。


誠:受け止めてるつもりだよ。どうしたらよかったの?現実的に考えて結婚できるの?


とも:現実的にできるかどうかは私にとって二の次なの。できるか分からなくても「そうだね。いつかしたいね。いつか結婚しよう。」って言ってくれたら、その気持ちだけで満足できた!約束がもらえるだけで十分なのに。。


誠:そんなのは「約束」じゃない!叶えられなければ「約束」なんて言えない。


とも:それならせめて、何かフォローしてほしかった。私たちは結婚できない、約束もできない。「でも、きっと若い時に出会っていたら、あなたをお嫁さんにもらっていたと思うよ」って。「きっと仲良しの夫婦だったと思うよ」って。そんな「if」の話をしてもらえたら、それだけで嬉しかったのに。


誠:分からない。わからないよ。だって、そんな仮定の話に意味があるの?実際は若い時に出会えなかったし、そんな未来にもなってない。


とも:何故「わからない」の?「こうだったら良かったね」と実際はそうじゃなくても、そう想像することで、心が和らいだり、前向きになれたりしない?私は、するよ?


誠:しない。そういう考え方をしてこなかった。現実に起こっていることしか見なかったし、実際には起こりえない想像をしたって意味が無いって思ってるところがある。


とも:なんでよ?!


この「なんで」は本当に理由を聞きたかったわけじゃ多分無かった。
「なんでわからないのよ」っていう批判の気持ちを込めた言葉。


誠:・・・多分、そういう環境で育ったから。現実を受け止めて、それに対処するしかなかったから。




私はバカだ。大馬鹿だ。
彼は、幼少期に御両親が離婚してる。専業主婦だったお母さんは自立できる経済力が無かったこともあって、親戚の家でお世話になったり、とにかく経済的には相当苦労をしたって言っていた。


そういえば彼は神様も信じてなかった。
私が「そんなことしたらバチが当たるよ」って言っても「神様なんているわけないよ」と相手にしてもらえなかった。

現実主義なところは諸々感じていたけど「そんなところもクールで冷静でカッコイイ」なんて浮かれた気持ちで見ていた。

なんておめでたいんだろう。
彼の子どもの頃は「こうだったらいいな」なんて夢を描くこともできない現実だったのかもしれない。きっと彼は、ずっとそうやって、現実から目をそらさず、なんとかしてきた。
そして、あんなにも物分かりが良いのも、きっとそういう生い立ちが影響してるんだと思った。


ごめんね。私、自分のことばっかりで。
「私のこと分かってくれない!」って分からせよう分からせようってばかりしてたけど、本当に分かってないのは私の方だ。
ぜんっぜん理解してなかった。彼のことを「大好き」って言いながら、寄り添ってなかったのはむしろ私の方だ。

自分が恥ずかしかった。
想像力のなさ。自分と人が経験してきたことは全く違っていて、だからこそ、考え方や価値観も千差万別だということを分かっているようで全然わかってなかった。

彼は私のように気持ちのアップダウンが無い。
そして、その動じない強いメンタルでいつも私に「大丈夫だよ」と言ってくれる。

だから私のブログのタイトルは、彼の象徴のようなこの言葉にした。

でもきっとその強さは、彼が子供のころからたくさんのことに耐えて、知らず知らずのうちに身に着けた強さだったのかもしれないし、彼の人を許せる大らかさも、然りなのかもしれない。


私は彼に謝った。
色んなことを。視野が狭いこと、要求ばかりのこと、ワガママなところ。
彼はいつものように「大丈夫だよ」って言ってくれた。
「あなたのことが大好きなんだから。もっと自信を持って。ずっと一緒にいるんだから。」とも。


私が彼にできることは、とっても少ないけど、彼はいつも私の何気ないセリフや話にコロコロと笑って「ともちゃんといると本当に楽しい。楽しいは重要なんだよ」って言ってくれる。

彼がもし、厳しい子供時代を過ごしてきて、コロコロと無邪気に笑うことが少なかったのだとしたら、今からでもたくさん笑わせてあげたい。

『縁が無かった』 そんなことないね。
私たちは、お互いが必要で縁があって結ばれた。
それに気付けて良かった。